COLUMN

コラム「社長の給料まる見え日記」

2015/08/20

【vol.365】おすすめ本「火花」

もし、自分が選考委員だったら、お笑い芸人が書いた作品を、先入観なく評価できるんだろうか?

そんなことを思いながら読みました。

いち読者としては、“先入観” はいりまくりです(笑)
なぜって、主人公がお笑い芸人なんです。
不器用で、内気で、人とのコミュニケーションが苦手な主人公。
ピース又吉さんを詳しく知っている訳ではないですが、印象としてオーバーラップせずにはいられません。

内容について。私はすごく好きでした!
売れない芸人徳永と、師と慕う先輩芸人神谷との日々が描かれているのですが、お笑いの世界の悲喜こもごもを、仔細に追体験することができます。
情熱大陸のようなドキュメンタリーでも表現できないであろう、芸人の矜持、狂気、不安などの繊細な心情がリアルに伝わってきます。

登場人物同士の会話やエピソードにかいま見える、優しい視点、繊細な感受性。加えて、笑いのツボ。
又吉さんは、私にはないアンテナの感度やセンスを、めちゃくちゃ高いレベルで持っているんだなあ!と、又吉さんのことがとても好きになりました(笑)

つまり私にとっては、お笑い芸人又吉さんが書いたお笑い芸人の物語。
だからこそ、一層楽しく読めたし、作者と作品を切り離す必要がありませんでした。

選考委員も、純粋に内容だけで評価した訳ではないように思います。
もし私が選考委員だったら、(もちろん一定の基準には達している前提で)作品の「鮮度」や「受賞がもたらす影響力」は評価基準に加味します。だって芥川賞は新人賞。話題性は重要です。

この読書離れの時代に、純文学の本が200万部以上も売れてしまう。
こんな最高のプロモーションはそうそうありませんよね!

という訳で「旬」が切り取られているこの作品。
ぜひ、新鮮なうちに楽しんでください。
※「火花」又吉 直樹著(文藝春秋)

 

火花