なぜか野球部出身は採用しない、元プロ野球選手の経営者
以前、経営者が元プロ野球選手という、異色の経歴を持つクライアント企業がありました。
しかもユニークだったのが、「野球経験者は採用しない。」と決めていたことです。
「プロまで経験したからこそ、わかるんですけどね。
野球の世界は強豪校になるほど、監督が絶対なんです。選手はサイン通りに動くことを求められます。だから“優秀な指示待ち人間”が出来やすい。
いままで何人も野球経験者を採用したんですが、指示命令へのリアクションは最高です。
私の言うことに忠実に従ってくれます。
言った通りに動いてくれるから、社長として気分はいいんですけどね(笑)
ただ…自分の頭で考えて行動することが、苦手なんです。
言われたことしかできない。創意工夫ができない。
それでは“強い組織”にはならないと考えて“野球部禁止”にしました。」
一般的には「体育会系=鍛えられているイイ人材」という認識がありますから、その経営者の話はとても印象深かったです。
ヒエラルキーが指示待ち人間を生む
さて、昨今話題のティール組織など“次世代型組織”の登場の背景には、上記の話とつながるところがあるなあと感じています。
ほとんど全ての企業が採用している、階層型のヒエラルキー組織は、スポーツにたとえると、“高校の野球部”型だといえます。
試合では、ひとつのプレーごとに、監督(リーダー)からサイン(指示命令)が出されて、選手(部下)はそれに従って行動する。
前提となるスタンス(監督の心の声)は…
『選手(部下)はまだ高校生で未熟だし、野球にも精通していない(スキルが低い)。
管理しないと練習(仕事)をしない。
監督(リーダー)が最も優秀なのだから、指示命令を徹底した方が、勝利(目標達成)を得られる。』
といったところでしょうか。
確かに、高校野球において結果を出そうと考えるならば、上記のスタイルは理にかなっています。
実際に、甲子園に出場するような強豪校の大半は、そうしたスタイルでしょう。
ただし…
この管理型スタイルが通用するのは、野球が“ゆっくり行われるスポーツ”だからです。
ピッチャーが一球投げるごとに、サインを確認する余裕がある。ワンプレーごとにインターバルがある。
イニングごとに攻守が入れ替わる時間が取られているし、ベンチでは話す選手同士やコーチと話す機会もある。
だから、指示命令型のチーム運営が可能なのです。
変化のスピードが速い現代に適したチームづくり
企業も、同じです。
いまと比較すると、昔は変化のスピードがゆっくりでした。
また、大量生産するメーカーのような業態にとっては、ピラミッド型で、社員を画一的に管理する組織の方が相性が良かったのです。
しかし、いまは世の中の変化のスピードが速い。
顧客の嗜好の変化。多様化。
劇的に生産性を高めてくれるアプリやサービスの対応。
次々と誕生する革新的な競合企業への対策。
いちいち立ち止まって、リーダーの指示を仰ぐ、などという余裕はありません。
また、リーダーも“万能”で“最先端”な訳ではない。
企業の役職者の大半は“過去に成功体験を積み重ねてきた人”です。
新しいことへのチャレンジや未来への決断が、素早く、精度高くできる能力を持っているかどうかは、別問題です。
いま、私たちがどんなチームづくりをすればいいのかと考えると・・・
スポーツでたとえた時に、私たちの競技種目が、野球からラグビーに変わったと考えてみてはどうでしょうか?
ラグビーは試合中、攻守が激しく入れ替わりながら、切れ目なく動き続けます。
プレー中、選手一人ひとりは、いちいち監督のサインを確認している暇がありません。
監督も、試合中は観客席から見ているだけ。
選手の自主性に任せるしかありません。
選手一人ひとりは瞬時の判断と意思決定を行い、チームとして有機的に連動し、ゴールを目指します。
ティール組織のような次世代型組織は、ラグビー部のようなチームをつくろうという発想なのです。
あなたの会社は、どのスポーツ大会で勝負している?
★上下の関係ではなく、役割分担。
★指示する人と動く人、ではなく、全員が主体的に考え、判断し、行動する。
★相手によって柔軟に対応を変化させながら、チームとしてのパフォーマンスを追求していく。
次世代型組織のポイントは、そうした点にあります。
ただし私は「全ての企業が次世代型組織になるべきだ」と言いたい訳ではありません。
業態や地域、自社の現状によっては、管理野球型のチームの方がいいケースもあります。
ヒエラルキー組織とティール組織。
どちらがいいとか悪いとかの問題ではなく、自社に合ったチームづくりを選択するべきなのです。
考えてみてください。
もし、自社が参加している“大会”の種目が、野球ではなくラグビーだったとしたら…?
にも関わらず、高校の野球部のような体制で、ラグビーの試合を戦っているとしたら…?
はたして勝てるでしょうか?
難しいですよね。
次世代型組織では「上下関係がない」とか「管理しない」といったキーワードが先行し、「ほんとうにそんなことができるのか?」と不安を感じている人も多いでしょう。
しかしスポーツの世界に置き換えてみると、ラグビーやサッカーでは高校生だろうと(試合中は)セルフマネジメントが機能しているわけです。
企業でも、できないはずはないのです。